簡単な平日、無残な休日〜第4話

土曜日。
一般的には素敵な休みの日のはずなのに、今日も、ある種の仕事だ。
お客さんではなく、雇い主の方と会わなければいけない。
事務所で?いや、契約者と会うのは、土曜日も開いている、大学生協の学食で。

土曜の12時。この時決まって俺は学食のカレーを食べている。何もやる気の起きないこの休みの日の昼間という時間と、何も具を入れる気のない料理とがどこかリンクしているのかもしれない。
そんなことを考えたり、もしくは何も考えないでスプーンで食料をすくいながら体内に摂取している時に、ヤツはやってくる。
毎週同じ時間に同じ場所で同じ物を食べている―特定のイメージをつけて目立ちたいわけではない、面倒臭いのだ―俺を目当てに、月に一度か二度、その男はやってくる。手にはいつもアロエ入りのヨーグルトだけを、これが昼食だと言わんばかりに持っている。
オフィス街ののOLか、と見るたびに突っ込みたくなるが、これまで一度も口に出したことはない。

今日も土曜。12時になり、いつものようにしていると、いつものヤツがやってきた。
「よっ!元気?」
この男はたいていの場合この挨拶であらわれている気がするが、毎回気に留めずに食事という作業をしている。
そこから強引に会話を進めるのが、こいつの常套手段だ。


「で、どうよ?木下さんちの息子さんの成績は。バーンと上がっちゃってる?」
食堂中に聞こえるほどの必要以上に大きな声と高いテンションで昨日のまさに中流を地で行く高校生について聞いてきた。


「まぁ、ぼちぼち…」
素っ気なくこちらが答えてみると…正面にいる男はそれを聞く気もなさそうで、慎重にヨーグルトの蓋を開けている。

こんな、大学の食堂内には似合わないブランドもののスーツに身を包む雇い主、実は、大学の同学年の男だったりする。


「まぁ、そんなことはともかく、君に頼みたいことがあるんだけど…」
そいつは自分でふった話を投げて、こちらに顔を近付けて、今までよりも数段小さい、ふたりにしか聞こえないような声になった。


こいつがこういう話し方をするときは、たいてい良い話ではない。
そう、コイツと初めて会った時からそうだった。あの時から…


…つづく。