ミヤビクエスト〜第37話

 
 「さぁて、満月の今夜に皆様にお送りする商品は〜?」
 低い声の男性がテンション高めに登場する。
 「なになに?早く教えて〜」
 となりの女性も、なんだかテンションが高めのようだ。
 「本日紹介する商品は、移動に便利なこのアイテム『馬車のもっちー』だ!!」
 「馬車のもっちー?」
 「そう、こいつだよ。このもみあげがかっこいいだろう?」
 低い声の男性は依然テンションが高い。
 「ほんと、素敵なもみあげね〜。でも、ちょっと長くない?」
 「いやぁ、このもみあげが長いのにはちゃんと意味があるんだよ。
  ほら、こうやってもみあげを持つと、手綱になるだろう?」
 「まぁ!!すごい!!もみあげが手綱に!!」
 女性の「まぁ!!」の声は美しく響き渡った。
 「ただ、このもっちーの凄さはそれだけじゃないんだぜ!」
 依然低い声が響く。
 「なぁに?」
 「ほぅら、この幌の中を見てごらん。」
 「まぁ!!馬車なのにキッチンがあるわ!!水道にコンロ、オーブントースターまで!」
 女性の「まぁ!!」は再び美しく響き渡った。
 確かに、馬車のもっちーの幌の中には、なぜだか蛇口などが付いていた。セットで穴あき包丁とか、フライパンとか、中華鍋とか、圧力鍋も付いていた。
 「すごいわ!!これなら、どんな旅でも料理し放題ね。」
 「な、凄いだろ。でも、それだけじゃないんだぜ。ホラ!!」
 「まぁ!!たくさんの寝袋と乾燥機まで!!」
 女性の「まぁ!!」は三度響き渡り、気づけば周りにいる普通のおばさんエルフも騒いでいる。しかし、ここで低い声の男性のとなりにいる女性が疑問を投げかける。
 「…でも、これだけ立派な馬車で、これだけアイテムが付いてて、お値段も高いんでしょ?」
 「いや、実は今回は大ヒット記念価格で、格安でお届けします!!」
 「まぁ!!」
 となりの女性と一般のおばさんエルフは声を揃えて「まぁ!!」と言った。
 「送料・手数料は、連帯責任でこちらが負担します!!
  そして、今お買いいただきますと、
  サービス期間中につき、同じもっちーをもうひとつプレゼント!!」
 「まぁ!!!!!」
 会場全体に拍手が巻き起こった…
 そんなとき、
 

 「いや、シミーさんたち、どうしたんですか?」
 いつもそう聞かれる立場であるはずの雅は、シミーと女王の急なハイテンションとしゃべりに、つい聞いてしまった。
 「いやぁ、自分たちがもっちーを手に入れたのはこういう経緯があったからですよ、
  と説明する代わりに、やっていた番組を再現してみたんだけど…」
 「そうよ。うちはひとつで良いのに、余分に同じのが付いてきたから、
  あなたたちにと思って。でも、本当に便利な馬車よ。この馬車、愛しているもの!」


 「余分って…」もっちーはなんだか複雑な気分だった。「愛している」も、なんだか本心に思えなかった。
 「とにかく、ありがとうございます!
  このもっちーがあれば、僕らのこれからの旅も快適です!」


 …こうして、キッチン、寝袋、乾燥機のついたもっちーと共に、新たな土地を目指す雅たちであった…。つづく…



 トシが手綱(もみあげ)を手に取り、雅たちは新たな道を進んでいく、そのころ、馬車の中では…
 「すごいアル!広いアル!これが馬車の中とは思えないアル!
  どこかの甲羅に鍵のはまる亀みたいに、この中だけ異空間な感じアル!!
  本当にすごいキッチンアル!!」
 「いやぁ、これでオレの超能力以外のもうひとつの才能も発揮できるぜ」
 「ほえ〜、シミーさんたちが言ってたように、本当に乾燥機がありますけど、
  ここ、洗濯機がないですよ」
 「あ、洗濯乾燥機かな、と思っていろいろいじってたら、間違えてそれ壊しちゃいました」



 雅たちが次にたどり着く場所とはいったい?次回に続く…