ミヤビクエスト
- 第19話〜踊り子と歌姫〜
「あぁ、テラコさんなら南の街に仕事に行ってますよ。ちなみに、この村の名前は…」
「あれ、おかしいなぁ。ひとりで遠くの街まで行けない、ってあの燃えカスみたいな幽霊が言っ てたのに…」
「あ、あの、この村の名前は…」
「そうですね。変ですね。」
「あ、あの、この村の名…」
「ほえ、あの幽霊さんは娘を溺愛するばかりに等身大の娘さんを見れていないんですよ〜。き っと、毎日のように来る、っていうのも幽霊さんの妄想ですよ〜。」
「ちょっ、この村は…」
「そうアル。ひとりでもギフっていう田舎から街に出るぐらいはできるアル。下手したら幽霊、っ ていうのもアイツの妄想かもしれないアル。」
「あ、こ、この村は〜」
セルフレームのメガネの人から貴重な情報を得た雅たちは、すぐさま南の街に向かった。
「あ、あれ、前がよく見えないや…。メガネが汚れてるのかなぁ。」
違うよ、セルフレームの人。それは、涙っていうんだよ。
…ここはライブハウス。くだらない日常から音楽によって解放される空間。多くの若者が集い、その情熱と思いをぶちまける場所。
うのっぱは、ステージ前、最前列で頭を振っていた。多くの若者の中で、もみくちゃになりながら、彼ら、彼女らと共に音楽にのってこぶしを振り上げた。時には大きく跳び、多くの若者の上を転げ回ったりした。
毎日のようにライブに通い、時にはステージで演奏している者たちよりも目立ってしまう彼女は、若者たちから知らぬうちに「踊り子」と呼ばれるようになっていた。
今日も、うのっぱはいつものようにステージ前の最前列を確保していた。彼女にとっては、そこが自分のステージだった。
満員のライブハウス。客照が落ちる。ざわつく若者たち。大きく流れている曲は、映画「オペラ座の怪人」の曲のようだ。そしてついに、歌い手がステージに現れる。
…ステージの上。降り注ぐ照明。一斉に向けられる若者のまなざし。「キャー」という少女たち。名前を叫ぶ少年たち。そこに、彼女はいた。黒いジャケットに身を包んで。
彼女は軽やかに歌いだす。彼女は力強く歌い上げる。その魂のこもった歌声によって、若者たちの魂も揺さぶられ、会場の気温が上がる。彼女の歌声によって、1曲目「ギフとYシャツとオオガキ」から、そこは祝祭の空間となる。
踊り子は、いつものように振っていた。振り上げていた。跳んでいた。回っていた。
あっという間の2時間。ここまでずっと歌い続けていた彼女は、ゆっくりと水を飲み、自分で自分を落ち着けるようにしてから、観客に向かって話し始めた。
「…どうも、テラコです。」
「キャーッ!」「テラコーっ!!」騒ぐキッズたち。テラコは、手で静まるようにする。
「…ありがとう。ここで歌うことができて、みんなと、この場を作り上げることができて、私は幸 せです。」
テラコの前には、マイクスタンドが用意される。
「…あまり話すのは得意ではないので、また歌います。で、次が最後の曲なんですけど、新曲 です。」
今まで手に持っていたマイクをスタンドにつけ、マイクの位置を確認する。そして、愛用のギターを手にした。
「…このギターは、私のお父さんがくれたもので。あ、お父さんはギター弾けないのに、なんか かっこいいから、ってだけで持ってたんですけど。それで、これからやる曲はそのお父さんに 向けて書いた曲です。聴いてください…」
…テラコが父に向けた曲の内容とは?お互い気づかないまま出会った姉妹の運命は?雅たちは?そして、この話の設定は?時代背景は大丈夫なのか?
いろいろな謎と問題を抱えたまま、次回へ続く!