簡単な平日、無残な休日〜第一話

人が歩いたところで何かにぶつかる、ってことはそう多くない。
大会での成績は良くないのに外見だけはやたらとそれらしいアメフト部のヤツに
無理矢理飲まされた後に電柱にぶつかる。
…そんなことが時折あるぐらいで、たいていのモノは避けて歩くし、
何かと怖いから人と肩がぶつからないように歩くことに関しては
非常に神経質になっている。



最近は、犬だって利口だから棒があってもきっと避けるだろう。
いや、その前に利口じゃない飼い主がビーフジャーキーって棒をその可愛い子の口に
放り込むかもしれない。
犬が牛を食う。何がどう弱肉強食だかわからない時代だ。



…そんなことを考えながら机に突っ伏している間に、周りの男たちが動きだし、
そそくさと家に帰ったりこれからの合コンの打ち合せをしたりしている。
どうやら、夕方の講義が終わったらしい。どんな話をしていたかはわからないが、
数ヵ月後にはわかったことになっている。
大学で学ぶことは、法律のなんたるやとか、経済のあれこれではなく、
どうすれば名前も知らないヤツからノートを借りられるか、という
コミュニケーション能力だ。



講義の大半が終了した夕方の大学では吹奏楽やアカペラ、
はたまたどこかの助教授の弾き語りなど、さまざまな音が飛びかって
自分が今どこにいるのかわからなくなる。



今日も俺はこの小さなひとつの世界をひとり抜け出して仕事に向かう。
俺の仕事は…、たまたま棒にぶつかってしまったヤツにその棒の折り方を
気付かせてやったり、今まで何にもぶつかってこなかったヤツに少しかましてやる、
そんな仕事…だと思う。

今、17時。これから長い一日が始まると思ったら、勝手に大きなあくびが出た。


…つづく