ミヤビクエスト〜第70話

  • 第70話〜そして伝説へ…

 雅がいし〜ちゃんを追いかけ、寝癖をつかみ、いし〜ちゃんが自身の雅に対する不安を語っている間に、テラコのライブは始まり、会場は大きく盛り上がっていた。
 ハリセンで叩かれるドラムから生み出されるビートがオーディエンスの鼓動を揺らし、長身・黒髪の女性が弾くギターから発生する6本の鋼の振動は観衆の脳を支配した。ベースは、なぜかちゃおのツッコミの師匠が弾いていた。一瞬、誰もいないのにベースが鳴っていると思ったが、そこにはちゃんと、人がいた。
 そして、テラコの歌声によって、7万人もの人々が、こことは違う、別の世界へと連れて行かれた。



 一方、雅といし〜ちゃんは…
 「う〜ん、ねぇ、いし〜ちゃん。オレがどうして念力が使えるか、
  念力の話ばかりするか、わかるかい?」
 「雅さん、やっぱりオレより念力のことが…、もういいです、オレ…」
 テラコの声は会場に大きく響いている。
 「違うんだ!いし〜ちゃん。
  オレの念力はね、いし〜ちゃんへの愛の力なんだよ!」
 「え…」
 「そう、前から念力の話をしてはいたけど、いし〜ちゃんが連れ去られた、
  って書いてあって、それで、いし〜ちゃんを探すうちに、
  念力が使えるようになったんだ!
  うん、だから、前から話していた念力やテレポートや小話も
  全部君のために考えていたことなんだ!そう、愛の力なんだよ!」
 「いやいや、そんなこと、オレ、信じられないっすよ〜。
  だって、かまってくれなかったじゃないっすか!」
 「確かに、今、『全部君のため』とか言うのは、すごく言い訳クサいアル」
 「ちゃ、ちゃおさん、今はふたりの大事なシーンなんだから、
  邪魔しちゃダメですよ」
 周囲では依然、死神や魔物が雅たちを見つめているが、まるでそこはふたりだけしかいないような空気になっていた。
 そして、テラコのライブも終盤に向かっていた。
 「いや、本当に、念力は、いし〜ちゃんへの愛の力なんだよ。
  旅の中でも、いし〜ちゃんへの思いが強くなると、テレポートとかができたんだ!
  他では全然できなかったのに…そう、いし〜ちゃんへの思いがオレの力になるんだ!」
 「ほえ〜、確かにそうですねぇ」
 「ちょっと、そんなことより、テラコのライブは?私の妹の熱い歌は?」
 「千さんも、うのっぱさんも、邪魔しちゃダメですよ。いい所なんですから!」
 日も暮れ、会場は照明に照らされている。テラコはステージ上で多くの汗を流しながら、自身もギターをかき鳴らしながら歌い続けている。
 「いや、そんな、言葉だけじゃ信じられないっすよ。
  オレへの思いが強いと念力が使えるって言うなら、
  今、ここで念力を使って、何かしてみてくださいよ!」
 いし〜ちゃんは両手を広げて訴えた。
 「よし、わかった。これがオレの君への想いだ。えいっ!」
 そう言って雅は両手を上げた。それはまるで、「オラに元気を分けてくれ!」みたいなポーズだった。その時雅は、とりあえず勢いで両手を「えいっ!」ってあげていただけだった。引くに引けず、とりあえず両手を上げていた。
 その時…


 ドーン、ドーンと大きな音を鳴らしながら、黒くなった空に大きな花が咲いた。何個も、何個も。
 光り輝くその花は、ひとつひとつがとても大きく、咲いては散る、ということを繰り返していた。赤、白、黄色、様々な色の花が、ピーマン王国の夜空に光り輝き、咲いていた。


 「きれい…」
 いし〜ちゃんは思わずつぶやいた。
 「…これが、オレのいし〜ちゃんへの気持ちだよ」
 「本当に綺麗な花火…、雅さんがこんなに僕のことを思ってくれているなんて…」
 歩み寄っていくふたり…周囲の人々は、突然の花火に見とれる人や、ふたりを祝福の目で見守る人など、様々である。
 ふたりの距離はかなり近づいている。見つめあう二人。



 …テラコは最後の曲を歌おうとしていた。
 「次の曲が最後の曲なんですけど、新曲です。
  これは、ある街で、寝癖みたいな髪型の人と出会って。
  その人は、どうやら、ダンナさんが自分を愛しているかどうか信じられなくて、
  それで家を飛び出してきたみたいで。
  でも、その奥さんも、本当はそのダンナさんのことを愛しているみたいで。
  飛び出してはみたけど、やっぱり好きだって。忘れられなくて、
  その思いを詩に書いてしまうぐらいだ、って。
  この曲は、その寝癖みたいな髪型の人が愛する人への思いを書いた詩に、
  私が曲をつけた、ラブソングです。聴いてください…」
 そう言うとテラコは、ゆっくりと、歌いだした…


  
 美しい歌声が流れる中、雅といし〜の距離はもう、あるのかないのか、わからないほどだった。
 …柔らかい歌声にふたりが、会場中が包まれる中、ポコはトシの頭の上でひとり思っていた。
 「あの花火、単なるライブの演出じゃ…」
 ポコはそう思ったが、口には出さないでいた。というか、言葉を話せるキャラではなかった。



 …幸せなムードに包まれるふたり。そこに、どこからともなく一枚の花びらが降ってくる。ライブ会場なので周辺に花などはない。ライブの演出にも、花びら、紙ふぶきなどが使われた形跡はない。そこに、一枚の花びらだけでも、とても美しい花なんだな、と感じてしまうような、花びらが、ふたりの横にひらりと落ちる。


 その花びらには字が書いてあった。そこにあった文字は…


 「おわり」 
 




 ……どうにかこうにか、終わらせた感じですね。もしかしたら、最終回の完全版、みたいなのを後日書くかもしれません。テラコの最後の曲も、歌詞を出してないですしね。
 ま、書かないかもしれませんが。そんな感じでした。